
2025年6月5日、ウクライナの英雄ワシル・ロマチェンコが37歳で現役引退を表明しました。世界中のファンに衝撃と敬意をもって迎えられたこのニュースは、ボクシング史に残る一つの時代の終わりを意味します。この記事では、その輝かしいキャリアと、技術の神髄に迫ります。
アマチュア時代の伝説
ロマチェンコはアマチュア時代からすでに“異次元”の存在でした。
- 2008年 北京オリンピック フェザー級 金メダル
- 2012年 ロンドンオリンピック ライト級 金メダル
- アマ戦績:396勝1敗12分
驚異の勝率と技巧で、「最強のアマチュアボクサー」として世界に名を知らしめました。
世界最速の3階級制覇──プロキャリアの軌跡
2013年10月にプロデビュー後、ロマチェンコはわずか12戦目で3階級制覇という前人未到の快挙を達成します。
主なタイトル歴:
- WBO世界フェザー級王者
- WBO世界スーパーフェザー級王者
- WBAスーパー・WBC・IBF・WBO世界ライト級王者
プロ戦績:18勝(12KO)3敗
プロ戦績詳細
戦 | 日付 | 勝敗 | 回 / 時間 | 決着方法 | 対戦相手 | 国籍 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2013年10月12日 | ☆ | 4R 2:59 | KO | ホセ・ラミレス | メキシコ | プロデビュー戦 / WBOインターナショナルフェザー級タイトルマッチ |
2 | 2014年3月1日 | ★ | 12R | 判定1-2 | オルランド・サリド | メキシコ | WBO世界フェザー級タイトルマッチ |
3 | 2014年6月21日 | ☆ | 12R | 判定2-0 | ゲーリー・ラッセル・Jr | アメリカ | WBO世界フェザー級王座決定戦 |
4 | 2014年11月22日 | ☆ | 12R | 判定3-0 | チョンラターン・ピリヤピンヨー | タイ | WBO防衛1 |
5 | 2015年5月2日 | ☆ | 9R 0:50 | KO | ガマリエル・ロドリゲス | プエルトリコ | WBO防衛2 |
6 | 2015年11月7日 | ☆ | 10R 2:35 | KO | ロムロ・コアシチャ | メキシコ | WBO防衛3 |
7 | 2016年6月11日 | ☆ | 5R 1:09 | KO | ローマン・マルチネス | プエルトリコ | WBO世界スーパーフェザー級タイトルマッチ |
8 | 2016年11月26日 | ☆ | 7R終了 | TKO | ニコラス・ウォータース | ジャマイカ | WBO防衛1 |
9 | 2017年4月8日 | ☆ | 9R終了 | TKO | ジェイソン・ソーサ | アメリカ | WBO防衛2 |
10 | 2017年8月5日 | ☆ | 7R終了 | TKO | ミゲル・マリアガ | コロンビア | WBO防衛3 |
11 | 2017年12月9日 | ☆ | 6R終了 | TKO | ギレルモ・リゴンドウ | キューバ | WBO防衛4 |
12 | 2018年5月12日 | ☆ | 10R 2:08 | TKO | ホルヘ・リナレス(帝拳) | ベネズエラ | WBA世界ライト級スーパー王座 / リングマガジン王座獲得 |
13 | 2018年12月8日 | ☆ | 12R | 判定3-0 | ホセ・ペドラザ | プエルトリコ | WBA・WBO統一戦 / WBA防衛1・WBO獲得 |
14 | 2019年4月12日 | ☆ | 4R 0:58 | KO | アンソニー・クローラ | イギリス | WBA防衛2・WBO防衛1 |
15 | 2019年8月31日 | ☆ | 12R | 判定3-0 | ルーク・キャンベル | イギリス | WBC王座獲得 / WBA防衛3 / WBO防衛2 |
16 | 2020年10月18日 | ★ | 12R | 判定0-3 | テオフィモ・ロペス | アメリカ | WBA・IBF・WBO統一戦 / WBA・WBO陥落 |
17 | 2021年6月27日 | ☆ | 9R 1:48 | TKO | 中谷正義(帝拳) | 日本 | |
18 | 2021年12月12日 | ☆ | 12R | 判定3-0 | リチャード・カミー | ガーナ | WBOインターコンチネンタル王座決定戦 |
19 | 2022年10月29日 | ☆ | 12R | 判定3-0 | ジャメイン・オルティス | アメリカ | |
20 | 2023年5月20日 | ★ | 12R | 判定0-3 | デヴィン・ヘイニー | アメリカ | WBA・WBC・IBF・WBOタイトルマッチ |
21 | 2024年5月12日 | ☆ | 11R 2:49 | TKO | ジョージ・カンボソス・Jr | オーストラリア | IBF世界ライト級王座決定戦 |
なんと第3戦目で世界チャンピオンに!
フェザー、スーパーフェザー級では敵なしでしたね。
「ロマチェンコ勝ち」(相手が勝ち目がないと棄権する)なんて言葉もありました。
3階級制覇の決定打:
2018年5月のホルヘ・リナレス戦では、プロ初ダウンを喫するも、10回に強烈な左ボディブローでTKO勝利。この一撃がロマチェンコの伝説を決定づけました。
📰リナレスが現役引退
— 雷神坊主 (@RIZIN_bozu) October 24, 2023
✔︎ ベネズエラから17歳で来日し帝拳ジムに所属
✔︎ 日本を拠点に世界で活躍
✔︎ '18年には当時PFP1位でダウン経験のなかったロマチェンコから6Rにダウンを奪う(試合は10回KO負け)
🇻🇪#ホルヘ・リナレス(38)
56戦47勝(29KO)9敗
👑3階級制覇王者pic.twitter.com/Q0VnEJYPLu
ロマチェンコの強さの本質
1. 「精密機械」ハイテクと称された理由
- 高速かつ多彩なコンビネーション
- 相手の死角を突くステップワーク
- 省エネかつ的確なディフェンスからの反撃
ゲイリー・ラッセルJr.戦やリゴンドウ戦では、まるで「マトリックス」のようなサイドステップと死角移動で観客を魅了しました。
相手がパンチを放った際には、もうそこにはおらず、再度に回ってアッパーなど足の動きの速さも天才的でした!
🥊ワシル・ロマチェンコ(37歳)がボクシングの引退発表‼️
— KAKUTOLOG📶プロレス/ボクシング/MMA/格闘技カクトウログ (@kakutolog) June 5, 2025
圧倒的なテクニックで相手がKOではなくギブアップしてしまう #ロマチェンコ 勝ちでも有名でした
★アマチュア戦績:396勝1敗
北京五輪、ロンドン五輪で金メダル
★プロ戦績:21戦18勝3敗
元世界ライト級3団体王者pic.twitter.com/YJygO44DMx
2. 心の強さと逆境での対応力
リナレス戦では初のダウンにも動じず、冷静に分析し逆転KO勝ち。この“勝負強さ”がロマチェンコの真骨頂です。
ライト級では体が小さかったので、KOも減り苦戦することも多かったようです。
3. 圧倒的な観察力と適応力
相手の癖や動きを瞬時に見抜き、試合中に戦術を柔軟に変えるボクシングIQの高さ。これはまさに“技術と頭脳”の融合です。
全盛期にはボクシング界で最も権威がある米国の老舗専門誌「ザ・リング」の全階級を通じたプロボクサー最強ランキング「パウンド・フォー・パウンド(PFP)」1位に長く君臨した。
最後の戦い、そして引退へ
2024年5月12日、オーストラリア・パースで行われたジョージ・カンボソス・ジュニア戦で、ロマチェンコは11回TKO勝利。空位のIBFライト級王座を獲得し、有終の美を飾りました。
その約1年後、2025年6月5日、自身のInstagramで引退を正式に発表。「次の世代に道を譲る」と静かにリングを去りました。
「リングの内外での勝利も敗北もすべてに感謝している。キャリアの終わりにあたり、本当の勝利をつかむためにはリングの中だけでなく、人生においても正しい方向性を見極めることが大切だと気づけたことに感謝している」
引用元:サンスポ
戦う男のもう一つの顔
ロマチェンコはボクサーとしてだけでなく、祖国ウクライナのために立ち上がる戦士でもありました。
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻時には領土防衛隊に志願し、リング外でも祖国のために闘ったその姿勢は、多くの人々の心を打ちました。
まとめ
ワシル・ロマチェンコ
彼のキャリアは、技術・戦術・精神力の全てを兼ね備えた“ボクシングの完成形とも言えるものでした。
世界最速の3階級制覇は、その能力の証明であり、同時に「考えるボクシング」の時代を切り拓いた金字塔です。
今後は、コーチや指導者として次世代の育成に携わることが期待されていますが、その動向からも目が離せません。