日産追浜工場、60年の歴史に幕 — 生産拠点再編がもたらす未来とは

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日産自動車は、神奈川県横須賀市にある追浜工場での車両生産を2027年度末をもって終了すると発表しました。
1961年の稼働開始から60年以上にわたり、日産の生産を支え続けてきた歴史ある工場が、その役割を終えることになります。
この決定は、日産の経営再建計画「Re:Nissan」に基づき、生産拠点の統合とコスト競争力の強化、生産効率の向上を目指すものです。


目次

なぜ追浜工場は生産を終えるのか?

追浜工場はこれまで約1,780万台もの自動車を生産し、日産の主力モデルである「ノート」や「ノート オーラ」、さらには日本初の量産電気自動車(EV)「日産リーフ」の生産も担ってきました。「EVの聖地」とも呼ばれ、日産の電動化戦略において重要な役割を担ってきた工場です。

しかし、近年は稼働率の低下(2024年予測で約40%)が経営上の課題となっていました。今回の生産終了は、日産がグローバルで進める生産拠点のスリム化、具体的には世界17拠点から10拠点への削減の一環であり、より効率的でコスト競争力のある生産体制を築くための決断です。追浜工場での生産は、主に福岡県の「日産自動車九州」工場へ移管・統合されます。


追浜工場の輝かしい歴史と生産モデルの変遷

追浜工場は、日産初の乗用車専門工場として1961年に操業を開始しました。元々は旧海軍航空隊の飛行場や米軍のスクラップヤードだった場所に建設され、日産の自動車生産の礎を築きました。

初期の生産モデルは1962年に生産が始まったブルーバード(410型)でした。その後もバイオレット(1972年)オースター、スタンザ(1977年)、プリメーラ(1990年)など、その時代の主要車種を数多く手掛けてきました。

特に、2010年には量産型電気自動車「日産リーフ」の生産が開始され、日産のEV戦略を牽引。

2016年にはエンジンで発電し電気で駆動するシリーズハイブリッド技術であるe-POWERを搭載した新型ノートの生産も開始されるなど、常に先進技術の導入と生産を担ってきた、まさに日産の技術革新の象徴のような工場でした。

日本初の実車風洞実験設備(1969年)や全天候実験室(1975年)、専用埠頭(1984年)の導入など、技術面でも常に先進的な役割を果たし、日産の乗用車生産と電動化の歩みを象徴する基幹拠点として、60年以上にわたり日本の自動車産業を支え続けてきたのです。


従業員の雇用と地域経済への影響は?

追浜工場には約2,400人の従業員が働いています。日産は、2027年度末までは雇用を維持する方針を示しており、その後の待遇や配置転換については、今後労働組合との協議を通じて決定される予定です。

予想される進み方としては、日産自動車九州工場などへの配置転換が主な選択肢となるでしょう。

また、追浜敷地内に残る総合研究所やテストコース「GRANDRIVE」、衝突試験場などの重要機能への再配置も検討される可能性があります。国や自治体による雇用調整助成金などの支援策も活用され、再就職サポートも行われると見込まれます。従業員のキャリアアップ研修なども実施され、スキル維持や向上も図られるでしょう。

今回の工場閉鎖は、地域の経済にも大きな影響を与える可能性があります。工場周辺のサプライヤー企業や関連産業、さらには地域社会全体にも波及するため、地元自治体や商工会との連携による雇用創出や地域ぐるみの雇用対策強化が期待されます。

日産自動車の追浜工場閉鎖の影響

1. 生産能力・拠点の再編

  • 追浜工場の閉鎖で国内生産能力の約3割が失われ、生産拠点は九州・栃木工場など一部へ集約されます
  • これは日産が掲げる「Re:NISSAN」経営再建計画の一環であり、全世界17拠点から10への統廃合、250万台体制への最適化、固定費・変動費計5000億円削減など、収益性・資本効率を優先した戦略転換を象徴しています

2. グローバル競争とコスト構造の見直し

  • 成長を続ける海外EV市場への対応や、原材料費・人件費高騰を背景としたコスト構造の抜本的刷新が追浜閉鎖の主要動機です
  • 高コストな国内工場の生産削減や合理化はグローバル競争力強化のためであり、今後も生産の海外シフトや国内生産体制のさらなる縮小が進む可能性があります

3. 技術開発・ブランドへの影響

  • 追浜工場は長年、リーフやe-POWER搭載車など日産の先進技術製品の象徴的生産拠点でした。閉鎖により、こうした象徴性や日本市場でのブランド価値維持に課題が生じる可能性があります。
  • なお、研究所とテストコースなどの開発機能は当面追浜に残す方針ですが、現場での技術伝承や開発現場との連携弱体化など、中長期的な技術競争力低下リスクも指摘されています

4. サプライチェーンと人材流出リスク

  • 地域の1,700社超のサプライヤー、約15万人超の間接雇用が影響を受けます
  • 生産拠点再編はサプライチェーンの再構築コスト増、ノウハウや熟練人材の流出リスクという長期的課題も内包します

5. 国内自動車産業全体への波及

  • 追浜閉鎖は日産のみならず、日本の自動車産業の国内生産最適化と雇用縮小の象徴的事例となっています
  • 今後も国内メーカーによる工場統廃合や海外シフトが加速しうる「転換点」となる可能性も指摘されています

閉鎖後の追浜工場と日産の未来

生産終了後も、総合研究所やテストコース「GRANDRIVE」、衝突試験場など、一部の重要な機能は追浜に残され、継続運用される予定です。

追浜工場の将来的な活用方法については現時点では未定ですが、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業との協議が報じられるなど、新たな展開が模索されています。

今回の追浜工場閉鎖は、日産がグローバル競争力を強化し、将来の成長を見据えた生産戦略を推し進めるための大きな一歩です。短期的にはコスト圧縮と資本効率の改善をもたらす一方で、長期的には日本の自動車産業の構造変化やサプライチェーンの再構築、さらには技術伝承といった課題にも向き合っていく必要があります。

日産は、より効率的で持続可能な生産体制を構築し、電動化や先進技術への投資を加速させることで、長期的な成長を目指していくことになります。追浜工場が担ってきた役割は、形を変えながらも日産の未来へと引き継がれていくことでしょう。

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