2025年5月14日、公正取引委員会は、ごま油大手メーカーであるかどや製油株式会社と竹本油脂株式会社に対して、独占禁止法違反(不当な取引制限)を理由に排除措置命令と課徴金納付命令を出しました。この2社がごま油の価格をめぐって結んだカルテル(談合)は、原料となるごまの価格高騰を背景に行われたものでした。今回のブログでは、この事件の詳細と両社の概要、そして食品業界におけるカルテル問題について考察します。
カルテル問題の内容は?
公正取引委員会の発表によると、かどや製油と竹本油脂は、大手食品メーカーであるヱスビー食品、丸美屋食品工業、フンドーキン醤油に対して販売するごま油と食品ごまの価格を共同で引き上げることを合意していました。
違反行為の内容
- ヱスビー食品向けごま油の価格引き上げ:令和5年(2023年)1月以降に情報交換を行い、同年6月20日までに価格引き上げを合意
- 丸美屋食品工業向けごま油の価格引き上げ:令和5年1月以降に情報交換を行い、同年6月9日までに価格引き上げを合意
- フンドーキン醤油向けごま油・食品ごまの価格引き上げ:令和4年(2022年)10月28日に面談し、令和5年2月以降に情報交換を行い、同年4月24日までにごま油価格引き上げを合意。さらに同年7月以降も食品ごまについても同様に価格引き上げを合意
これらの行為は「公共の利益に反して、競争を実質的に制限」したとして、独占禁止法違反と認定されました。
排除措置命令と課徴金
公正取引委員会は両社に対し、カルテル合意の消滅確認や再発防止策の実施などを含む排除措置命令を出しました。また、かどや製油に対しては2,198万円の課徴金納付命令も出されています。一方、竹本油脂は課徴金減免制度(リーニエンシー)に基づき調査開始前に違反を申告したため、課徴金の支払いを免れました。
かどや製油の歴史と概要は?
かどや製油は、安政5年(1858年)創業の老舗ごま油メーカーです。本社は東京都品川区に所在し、「純正ごま油」のブランドで広く知られています。
- 社名:かどや製油株式会社(Kadoya Sesame Mills Incorporated)
- 事業内容:ごま油、食品ごま等の製造販売
- 資本金:21億6,000万円
- 創業:1858年(安政5年)
- 上場市場:東京証券取引所スタンダード市場
同社は「ごまで、世界をしあわせに。」をスローガンに掲げ、創業以来160余年にわたってごま製品の専門メーカーとして事業を展開してきました。工場は創業の地である小豆島に置き、厳選した原料のごまを輸入し、最新の設備で製造しています。
竹本油脂の歴史と概要は?
竹本油脂は、1725年に菜種・綿実から搾油した燈明油製造からはじまる、約300年の歴史を持つ製油メーカーです。本社は愛知県蒲郡市に位置しています。
- 社名:竹本油脂株式会社(TAKEMOTO OIL & FAT CO.,LTD)
- 設立:1945年6月(創業は1725年)
- 資本金:1億円
- 代表者:竹本元泰
- 従業員数:677名(男性 528名 / 女性 149名)
- 売上高:2024/12月期 1170億円の見込み
同社は「マルホン胡麻油」ブランドで知られており、特に胡麻を生のまま搾った「太白胡麻油」の元祖として有名です。食用油事業だけでなく、界面活性剤などの化学品事業も展開する非上場企業です。
カルテル発生の背景
この価格カルテルが結ばれた背景には、ごま油の原料となるごまの仕入れ価格の高騰があると見られています。世界的な食料原料の価格上昇や供給不安、円安などの影響を受け、原材料コストが大幅に上昇する中、2社はこうした状況に対応するため、価格競争を回避する形で違法な合意に至ったものと推測されます。
読売新聞の報道によれば「かどや製油と竹本油脂がカルテルを結んだのは、近年、ごま油の原料となるごまの仕入れ価格が高騰していることが背景にあるとみられる」としています。
食品業界におけるカルテル問題
食品業界では原材料価格の高騰に伴い、適正な利益を確保するために価格引き上げが必要となるケースが増えています。しかし、競争市場において価格は本来、各企業が独自に決定すべきものであり、複数企業による価格協定は独占禁止法で厳しく規制されています。
今回の事件は、競争環境の厳しい食品業界において、原材料高騰という外部要因に対応するために違法な手段に訴えた事例といえます。消費者にとっては、適正な競争が行われないことで不当に高い価格を支払わされるリスクがあり、市場経済の健全性を損なう行為です。
まとめ
今回のかどや製油と竹本油脂のカルテル事件は、企業がビジネス環境の変化に対応する際に、法令遵守の視点がいかに重要かを改めて示すものとなりました。両社は長い歴史と伝統を持つ名門企業であるだけに、この事件が企業イメージに与える影響は小さくありません。
今後、両社には公正取引委員会の命令に沿った再発防止策の実施とコンプライアンス体制の強化が求められます。また、食品業界全体としても、原材料高騰などの困難な状況下でも公正な競争を維持するための自浄作用が期待されます。
消費者としては、この事件を通じて、私たちが日常的に使用する食品の価格形成メカニズムや、公正な市場競争の重要性について考えるきっかけとなれば幸いです。